修平は帰りを急いでいた。取引先での打ち合わせの結果がよくなかったのだ。その報告を上司にしなければならない。口うるさい上司だから、ネチネチ言われるだろう。修平は憂鬱な気持ちでトボトボと歩いた。道が広い通りに出たときだった。前方のコンビニから赤いワンピースの女が出てくるのが見えた。髪の長いその女に目が止まる。見覚えのある女だった。同僚の藤田紗枝だ。 職場では髪をポニーテールにしていて、それがトレードマークのようになっている彼女だが、今はその髪をおろしている。そのせいですぐに紗枝だとは気づかなかった。 修平と紗枝は、電気メーカーの営業部に勤める同僚である。同じ営業部でも紗枝は営業統括課、修平は営業一課と所属する課が違うため、あまり話をしたことはなかった。紗枝は美人であった。そのうえモデルになれそうなほどのプロポーションである。彼女に思いを寄せる男性社員も少なくなかった。修平も彼女のことが好きだった。「こんなところで何をしているんだろう?」 修平は不思議だった。 時間は午後七時をまわっている。ここは会社から電車で二十分ほどの繁華街である。しかも駅から少し離れた場所だ。会社帰りに紗枝がこんなところまで来るだろうか。 もしかして、デートかも? と、修平の中で勝手な妄想がふくらむ。 社内きっての美人の彼氏ってどんな男だろう。ちょっと見てみたい。ならばあとをつけてみよう。それはほんの軽い好奇心から始まった。上司への報告のことなどもう頭になかった。 紗枝との距離は五十メートルほどだった。尾行なんてやったことがない。修平は見失わないようにするだけでひと苦労だった。 少し歩くと居酒屋やパブ、ゲームセンターなどが多いにやかな通りに出た。久しぶりに来てみると、このあたりも昔とは街並みが変わっていた。 コンビニやファストフード店が多く、安っぽい雰囲気になってしまった。その分、昔からある料亭が姿を消してしまっていた。 修平は『藤村』という料亭が好きだった。まな板ほどもある巨大な表札がかけてあり、見る者を圧倒した。苔むした屋根瓦といい、藤村は修平の描く高級料亭のイメージにぴったりだった。
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