将来を嘱望されていた男が求めたのは、安定した人生よりも、自分の性欲を金に換算できる世界。　そこにいつしか染み込んできた《情》に、彼は、今まで忘れていたものを思い出す。　けれど、それに手を伸ばす事はもうできなくて・・・。　　腐歴半世紀超作者による、アンチ幸福的結末の物語。

「そうか・・・そうだよな。最初から好かれてるってわけでもなかったしな」　悟ったようにエドが溜息を漏らす。　「おいおい、どうしたんだよエディ？　今日はやけに悲観的なんだな。俺が、仕事でもないのに好きでもない奴と寝ると思うか？」　「・・・なら、好きなのか？」　「好きだよ」日本での安定した職と従順な恋人を捨て、大学時代の友人の誘いに乗ってニューヨークへ渡った樋口佑亮、37歳。彼は旧友の経営する人材派遣会社で、昼間は法律事務所の職員として働いているが、不定期で会社が催す会員制クラブでは、自らを集まった客たちに披露し、性戯の相手として選んでもらってその相手をするという、もう一つの顔を持っていた。樋口を客に提供するためその身体の管理を任されているエドは、いつしか樋口に対し、仕事で必要とされる以上の感情を抱くようになっていた。それに気づき始めた樋口も、同情に近い感情をエドに対して持つようになり、いつかそれは愛情へと姿を変えて行く。しかし二人の間には、会社の経営者にして樋口の旧友、そして、彼に対し異常なまでの執着を抱く男、平浩司が立ちはだかっていた。成就するはずがない恋愛だと最初からわかっているものの、樋口とエドの絆は日々強まってゆく。そんなある日。平から人生の最終目的を明かされた樋口は、自分が彼の手から逃れられないのを悟り、エドだけでも救おうと考えるが、奇しくもエドも同じように平の計画を知り、樋口を国外へ逃そうと計画する。しかし、彼らの何枚も上手を行く平により、二人の望みは儚く打ち砕かれてしまう。